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みとばいふ

水戸梅譜

山本 周五郎

「芸能文化」1942(昭和17)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,607 字 · 25 页

青空文庫

いつ頃からのことかわからないが、供の者が気づいてからでもこれで五回めになる。なんのためについて来るのかまったくわからなかった、捕えて糾明しようとしたが、そのたびにすばやく身を隠してしまう、道次がながいのでなんども試みたけれど、そのすばやさには手が届かなかった。――ふしぎな男だ。――いったい何者だろう。そういう噂は次ぎ次ぎに伝わって、このまえの出府のときには光圀の耳にも達した。光圀にもふしんな話だったが、べつに害意がありそうにも思えないのでただ捨ておけと云って済ませてきた。

こんどの帰国は久方ぶりだった。去年(延宝八)将軍家綱が逝去して綱吉が五代を継ぎ、七月には将軍宣下のことなどがあって、参覲のいとまが延びていたのである。こんど帰るに当って、光圀は水戸の館のいまわりに、梅園を造る計画をたてていた。これは数年まえからの考えだったが、計画をたてるたびについ大掛りなものになるので、いつも中途でやめていた。それで、こんどは規模結構はぬきにして、ただ無ぞうさなままに梅樹を集めてみようと考えたのであった。みずから杖をひいて田園をさぐり、野にある梅のつくろわぬものを集めるということは、思うだけでも五十四歳の初老の心をたのしませた。