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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页
梶田派は成信を擁立しようとした。
――成武が脳を病んだ直後から、大炊頭は成信に家督をなおすつもりであった。幾たびも養子のはなしがあったのを、大炊頭が断わりとおしたのはそのためである。
かれらはこう主張し、その反面、成武が白痴であるということを、幕府の閣老のあいだに宣伝したらしい。……大炊頭は卒中で倒れて寝たきりだった。全身の麻痺で、口をきくこともできなかったようだ。
成信は詳しいゆくたては知らない。知りたいとも思わなかったが、三年まえの二月のはじめのある夜、いつも側に仕えている鮫島平馬という者が来て、――梶田重右衛門がとつぜん謹慎になったこと、その一派のおもだった者はみな職を免ぜられ、三人ほど追放になった者があること、そして若殿の身にも累が及ぶかもしれないので、充分に注意して貰いたいことなどを顔色を変えてあわただしく申し述べた。
注意するもしないもなかった。その翌朝、成信はみしらぬ侍たちにとり囲まれ、本所の下屋敷へと移された。そしてひと月すると上屋敷から使者が来て、大炊頭の名でつぎのようなことを申し渡された。
――おまえは一部の奸臣と謀って、兄、成武をさし越し、自分が家督になおろうと企だてた、この事実はわが家法の重過であって、とうていゆるすわけにゆかない。