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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

「その女は百日もいたかな、まもなくそのなかまの一人とどこかへいっちまった、じつはそれがその女の本当の亭主だったらしい」

養父は彼を搾れるだけ搾りとおした。そして胃を病んで死んだのであるが、寝こんでから息をひきとるまで、半年以上ものあいだ彼を「不孝者」といって罵しり続けた。――伝九郎は三十になっていた、はじめて自分ひとりの、好きなように生きられるときが来た。そう思ったのであるが、これといって手に職があるわけではないし、年がもう年で、そのときどきの仕事を転々と稼ぐよりほかにしかたがなかった。

三十一で二度めの妻をもった。もう二十三になる気の強い女でいちど嫁にいったことがあるらしい、こまめに働らくのはいいが、口やかましいうえにぐちっぽくて、おそろしい吝嗇で、しかも平気で嘘をついた。

「そのじぶんおらあ車力をしていたが、親方にみこまれて古石場の近くへ帳場を持たせてもらった、堅いところをみこまれたんだろう、車を十二台と曳き子を三人あずかった、貸し車もするわけなんだが、――その曳き子のなかに吉五郎という男がいて、こいつはおれより古株なんだが、……悪い野郎で、三月と経たねえうちに帳場の金をさらってずらかりあがった、そればかりならいいが、十二台の車もひとに売る約束で、その金も持ってきあがったにはびっくりした」