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どろぼうとわかとの
泥棒と若殿
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页
「飯も上出来だし魚の焼きかたもいいし、おまけに芹のしたしたあ驚いた、こいつあたいした驚きだ、兜をぬいだぜ」
成信は笑ってなにも云わなかった。
「お侍は恐えてえことを云うがまったくだな、すまして肩肱を張ってるが、いざとなれあこんなこともできるんだ、やっぱり修業てえものが違うんだな」
「――そう褒めるな、まぐれ当りだ」
「御謙遜にあ及ばねえ、と、思いだしたんだが、おめえさっきこれにあわけがあるとか云ったようだが、あれあなんだ」
「――うん、しかしそれは、喰べてからに、しよう」
「気をもたせねえで呉れ、心配になるぜ」
食事をしながら話すつもりだった。しかし箸をとってみると口がきれない、それでいっとき延ばしたわけであるが、食事が済み、あと片づけが終って、いつもの炉端へ坐ってからも、胸さきの詰るような気持で、どうにも話しができなかった。
「どうしたんだ、わけてえのはなんだ」
「――なに、たいしたことでは、ないさ」
「たいしたことでねえにしても、話しを聞かなくちあおちつかねえ、云って呉んねえな」
成信は蚊遣りの煙にむせて、咳をしながら脇へ向き、笑いながら、じつはわけもなにもない、あのときのでまかせだと云った。