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しんやのきゃく
深夜の客
大倉 燁子
「モダン日本 九巻一三号」1938(昭和13)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,926 字 · 28 页
嫉妬
「先生、どうか、少時私の申上げることに、お耳をお貸し下さい」
洋子は無論その願いを拒むわけにはゆかなかった。こんな優しい顔はしているが、彼女がもし先方の乞いを退けたら、どんな態度に出るか分らなかった。
「承わりましょう。が――、夜も更けていますから、どうぞお早くお話し下さい」
尾越は嬉しそうに、小腰を屈め、
「そう仰しゃって下さるだろうと思って居りました。やはり、私の眼は過まらなかった!」と呟いた。やや沈黙の後、
「今度私が脱獄した理由、それは決して自分自身のためにやったのではないのです。あの男のため、いや、ある男の頼みを果してやるためだったのです。先生、私はあなたの前に偽りのない事実をお話しいたします、それをお聞きの上、是非先生もお力をお貸し下さいますように、お願いいたします」
嫉妬
尾越千造は襟を正して語るのだった。
「私はこれまで自分でやろうと思った事で失敗したことはありません。脱獄も今度で二度目ですが、二度とも成功でした。最初の時はある売国奴を殺つけるため、今度は罪なき囚人の死の願いを果すためです。私は忍術使いではありませんが、人の注意を他に外らせておいて、仕事をするのが得意ですから、脱獄もそう難しい事ではありません、が、さて、脱獄しても、今度のような場合は、自分の力ばかりでは駄目、囚人の願いを聞いて頂く