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りょうしのむすめ
漁師の娘
徳冨 蘆花
「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页
四
実にお光の眼には、男体女体二つ並んで水と空の間にゆったりと立った筑波が、宛らに人のようで、またさらに二親のように思われて、其のゆったりとしてやさしく大きく気高く清い姿がなつかしくてなつかしくて、其の前に歌う時は、恰ど父母の膝に突伏して、余所での悲しさを思い入れ泣くような心地がして、歌って果は泣いて、それが為に心は慰められた。
四
霞が浦の秋幾たびか立ちかえって、漁師の娘お光十四の春を迎えた。木綿縞の古布子垢づいて、髪は打かぶって居るが、生の父母の縹緻も思われて、名に背かず磨かずも光るほどの美しさ。色雪を欺いて、乱れて居れど髪つややかに、紅梅の唇愛らしく、眉細くして、第一眼は玉とも露とも秋の水とも譬えかたなく澄んで美しい。それに少しも引きつくろう容子もなく、何時も袖なしの着物で古手拭打かぶって、洗濯をしたり、飯を焚いたり、時々は爺と一所に漁に出かけたり、それに櫓も小腕に似合ぬほど達者に漕ぐ。が、天の生せる麗質で、爺と潮来に行った時、女郎屋の亭主お光を見て「これは大したものだ、三百両の代物だ」と云ったこともあった。島の若者どもが時々其の姿を見てちやほやするが、お光は頓と気もつかぬらしい。