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はいかぐら
灰神楽
江戸川 乱歩
「大衆文藝」1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,262 字 · 27 页
三
考えて見れば、彼はあの殺人によって、計らずも、二人で争っていた恋人を独占した訳であった。社会的地位と物質との為に、いくらか一郎の方へ傾いていた彼女も、最早その対象を失ったのである。
「オオ、俺は何という幸運児であろう」
夜、寝床の中では、昼間とは打って変って楽天的になる庄太郎であった。彼は煎餅蒲団にくるまって、天井の節穴を眺めながら、恋しい人の上を思った。何とも形容の出来ない、はなやかな色彩と、快い薫と、柔かな音響が彼の心を占めた。
三
だが、彼のこの安心も、畢竟寝床の中だけのものであった。翌朝、殆ど一睡もしなかった彼の前に、第一に来たものは、恐しい記事をのせた新聞であった。そして、その記事の内容がたちまち彼の心臓を軽くした。そこには二段抜きの大見出しで、奥村一郎の惨死が報道されていた。検死の模様も簡単に記されてあった。
「……前額の中央に弾痕のある点ピストルの落ちていた位置等を以て見るも自殺とは考えられぬ、其筋では他殺の見込みを以て、已に犯人捜索に着手した」
そういう意味の二三行が、ギラギラと、庄太郎の眼に焼きついた。彼はそれを読むと、何か急用でも思いついたかの様に、いきなりガバと蒲団から起き上った。