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はいかぐら

灰神楽

江戸川 乱歩

「大衆文藝」1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,262 字 · 27 页

青空文庫

だが、果して絶体絶命であろうか、何かしらこの難関を切抜ける方法がないものであろうか。それから一晩の間、庄太郎は全身の智慧をしぼり尽して考えた。異常の興奮が彼の頭脳を此上もなく鋭敏にした。ありとあらゆる場合が、彼の目の前に浮んでは消えた。

ある刹那、彼は殺人現場の幻を描いていた。そこには額の穴から血膿を流して倒れている奥村一郎の姿があった。キラキラ光る拳銃があった。煙があった。桐の火鉢の五徳の上に、半ば湯をこぼした鉄瓶があった。濛々と立籠めた灰神楽があった。

「灰神楽、灰神楽」

彼は心の中でこんな言葉を繰返した。そこに何かの暗示を含んでいる様な気がするのだ。

「灰神楽……桐の大火鉢……火鉢の中の灰」

そして、彼はハタとある事に思い及んだ。暗澹たる闇の中に一縷の光明が燃え始めた。それは犯罪者の屡々陥る馬鹿馬鹿しい妄想であったかも知れない。第三者から見れば一顧の価値もない愚挙であったかも知れない。併しこの際の庄太郎にとっては、その考えが、天来の福音の如く有難いものに思われるのだった。そして、考えに考えた挙句、結局彼はその計画を実行して見ることに腹を極めた。