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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

だから誰も席をゆずりたくない。そんな汽車におれが乗込んで、皆困っただろうと今思うよ。遺骨という大義名分を振りかざして、斬り込んで行ったようなものだからねえ。居眠りをよそおっている奴もいた」

「で、君はその学生にお礼を言ったのか?」

「言わないさ。言わないで、実に平然として腰をおろした」

栄介は語調を強めた。

「何故なら、学生はおれにゆずったんじゃない。遺骨に席をゆずったんだ」

妙な理屈だと思いながら、私は黙って聞いていた。

「坐れたけれども、それからがたいへんだった。居眠りが出来ないんだ。眼をつぶる分にはいいけれど、うとうととすると、身体が前のめりになって、箱が膝から落ちそうになる。ハッと気がついて、姿勢を元に戻す。またうとうととして目覚める、という具合で、結局故郷の駅に降り立つまでに、おれは確実に一貫目はやせたね。ほんとにあの遺骨受領は、難行苦行だったなあ。まだ若い頃だから保ったけれど、今のおれならとても出来ることじゃない」

キャンバス椅子の上で栄介は背伸びをした。

「家にたどりついて、箱をあけて見ると、骨壺があった。蓋をあけると、骨の破片が少量入っていたよ」