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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
戦争なんてもんじゃなかったですよ。一年間は木の根草の根ばかり食べて――」
加納は私の顔を見た。
「城介君もきっとその戦死の方に入るね。あっしが生きて帰れたのは、まぐれみたいなもんです」
加納が老けて見えるのは、その苦労のせいかとも私は思った。舟宿の大きな名刺をもらい、私はそこを辞した。
翌日栄介に電話してその旨を伝えた。
「そうか。加納がいたのか」
栄介は言った。
「久しく魚釣りをやらないから、やってみたいな。それで自殺の原因は、何だった?」
「立話だったんで、聞かなかった。どうせ聞けると思ってね」
と私は答えた。
「釣竿や餌は、向うで都合して呉れるそうだ。身柄だけ行けばいい」
ある朝私は栄介を待ち合わせ、タクシーで千葉に向った。風もなく、いい天気である。
「背中はもうすっかりいいのかい?」
私は訊ねた。
「舟に一日中坐っていられるか?」
「まあ大丈夫だろう。つらけりゃ舟を戻せばいい」
「コブの方はどうなった?」
瞬間栄介は憂欝そうな顔をした。
「前よりも少し大きくなったような気がする。手ざわりの具合ではね」
「しかし背中でよかったね」
私はなぐさめた。栄介はうなずいた。