轻松读懂日语经典作品
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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
ある日の夕凪ぎの時のことであった。栄介は病室に坐っていた。すると福次郎が何かしゃべり出した。意味がよく判らない。何度も聞き返して、やっと理解出来た。
「女はまだか。早く階下から連れて来い」
ここはどこだと、栄介は反問した。すると福次郎は隣県の市の遊廓の名を言った。福次郎はその娼家の一軒の二階にいるつもりらしい。県庁時代か会社勤めの時、出張を命じられて、その経験がよみがえって来たのだろう。栄介は答えた。
「ここはそんなとこじゃない。うちなんだよ」
しかし福次郎は納得しなかった。早く連れて来いとじれて、栄介が動かないと見るや、動かせる方の足をにゅっと伸ばして、足指でいきなり栄介のふくら脛を、蟹のようにギュッとはさんだ。それはおそろしいほどの力で、栄介は思わず悲鳴を立てた。病人にどうしてこんな力があるのだろう。
「参った。参った。お父さん」
はさみついて離れない父親の足指を、苦労して外して、栄介はあやまった。部屋を飛出して三十分経って戻って来ると、福次郎はもうそのことは忘れていた。このことはもちろん、母親や幸太郎には話さなかった。紫色のアザだけが、しばらく栄介の脛に残っていた。