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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

十

幸太郎は今までに栄介のことを、君、と呼んだのは、これが初めてである。栄介は背を反らした。

「両方です」

二人はお互いの顔を、さぐるようにじっと見合っていた。

「判った。酔った上のことなら、忘れよう」

少し経って幸太郎は言った。

「告別式は二時からだったな」

三時過ぎに、福次郎と貝殻をおさめた棺は、前庭を通って、霊柩車に乗った。一週間ほど栄介は家で休養し、それからまた上京した。

その翌月から、幸太郎からの送金は途絶えた。栄介はアルバイトによって学資を得ねばならない破目におちいった。

十

胴の間で加納の手料理のてんぷらが揚がり始めた。栄介が持参したウィスキーの栓があけられ、湯呑みに注がれた。てんぷらはうまかった。店で食べるのと味が違っている。油のにおいが海風に散って、こもらないせいなのだろう。

「あちらの人間はね、鍋一つで何もかも料理するんです。いや、こんなちゃちな鍋じゃない」

加納は長箸で揚げ鍋をちょんちょんと叩いた。

「大きなのは盥ほどあって、厚みもこのくらい、一寸以上ある。それでお粥もつくれば、肉や野菜も煮る。煮るというより、いためつけるんですな。岩塩で味をつける。