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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
「やはりこれも戦争のおかげですよ」
加納は笑った。
「そのあとニューギニヤでしょう。二百人の同年衛生兵の中、今生きているのは何人かな。十人かそこらです。初めの中こそ、何でお前らはおれに断りもなく死んじまったんだ、理不尽じゃねえか、と思ってたんだが、今はもうあきらめたね。あきらめると言うより、運よく生き残ったんだから、彼等になりかわって、生きたいだけ生きてやろう。長生きしてやろうという気分だね」
断りもなく死んだ、という言葉には実感があった。それはきりきりと栄介の胸にしみ入った。
岸についた。栄介は舟を出て、石段を上った。厠は囲いだけで、小便は直接川に落ちる仕掛けになっている。排出し終ると、どっと疲労が肩にかぶさって来た。
(今日一日で、城介の軍隊生活のほとんどを聞いたんだからな)
厠を出て、ゴカイくさい手を石鹸でごしごし洗いながら、栄介は考えた。
(疲れるのも当然だ)
道具や釣竿をかかえて、加納は石段を登って来た。店の方に大声をかけた。
「おおい。奥の間でお客さんたちと一杯やるから、用意しな」
「そこらでちょっと横にさせて呉れないか」
栄介は自分の肩をたたきながら頼んだ。