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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「大沽はあの方向なんだな」

城介は感慨深そうに加納に言った。

「あの頃にくらべると、おれたちもずいぶん軍隊ずれをしたもんだね」

「そうだね」

加納も応じた。

「まだあの仮バラックは建っているかな。即製のおんぼろ小屋だったが」

プラットホームには、婦人会の連中が旗を振ったり、慰問品を差入れて呉れたりした。緒戦の勝利で、部隊移動の機密などは厳重でなかったのだろう。

汽車は大沽に行くのではなかった。南京を経て、上海に到るのである。主要駅で停って、食料や石炭を搭載する間、プラットホームで体操などするが、あとは乗りづめで、食っては寝、食っては寝という生活なので、皆は退屈し、また運動不足で少し肥った。肥ったと言うより、筋肉がだらけてしまった。景色の変化も、あまり興味を引かなくなった。上海について、やっと彼等は汽車から解放される。

「初年兵の時の汽車旅は、緊張していたんで退屈どころの騒ぎじゃなかったが、今度は緊張はないでしょう。しかも厚和から上海までの長丁場だ。うんざりしたね」

加納は私に説明した。

「上海に着いて、城介君といっしょに機関車のとこに行った。城介君が機関車に向って冗談に、お前もくたびれただろうが、おれたちもほんとにくたびれたよと、皆を笑わせたね。