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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
片手にはイギリス産のウィスキーを提げていた。のそのそとオンドルの上に登って来た。
「いいものをせしめて来たよ。今夜は皆で飲もうや」
城介の声は明るかったが、顔はやや青みを帯びていた。
「中田軍医に会うのに、拳銃なんか必要はないでしょう。それに拳銃を持って行ったというのは――」
加納はちょっと言い淀んだ。
「矢木君は軍医と刺違えるつもりで行ったんじゃないかと、わたしは推量するんだがね、中田軍医はそれにおびえて、またどうせこの乱暴者は間もなくいなくなる予定だし、というわけで、強制入院を撤回したんじゃないかと思うんだ。そんな男でしたよ、中田という隊長は」
「では城介君は治療しようという気持はなかったのかね」
「いや。それはあった。是非なおりたいという気持は、充分に持っていたね。だから自制して、量をすこしでも殖やすまい、減らして行きたいと、これはたいへんな努力をしていたと思う。しかしそれが出来なかったんだ。わたしはその翌日か、何日から常用するようになったと訊ねたら、彼は笑ってごまかしたけれど、わたしの推定ではやはりオルドス作戦前後だね。あれほどわたしらは信頼し合っていたのに、彼は自分自身の苦しみや悲しみを、ほとんど打ちあけなかった。