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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「既往症がある者は申し出よと言うからさ、申し出たら殴られてね、それっきりさ。そしてその入団した人間の半分が、その翌日サイパンに行った。選ばれた半分じゃなく、任意の半分だよ。兵籍番号の何号から何号まで集まれという具合で、それらがそっくりサイパンに連れて行かれたんだ」

「大ざっぱな話だねえ」

「うん。ひでえ話だ」

栄介は声を低めた。

「途中で潜水艦に沈められるか、うまく着いても玉砕だね。サイパンにアメリカが上陸したのは六月で、七月七日に日本軍は全滅した」

栄介はしばらく口をつぐんだ。

「おれは運よく全滅しないで、南九州で終戦を迎えた。終戦後二箇月して家に、いや、お寺に戻って来た。やはりそこに疎開していたもんでね。おふくろに叱られたよ。なぜ早く戻って来ないのかってね」

栄介は顔を天井に向けた。

「何だかこの喫茶室は暗くてうっとうしいな。外に出ようか」

「僕に相談って、何だね?」

「実は幸太郎伯父のことなんだがね、養老院に入ってもいいと言うんだ」

栄介は伝票を持って立ち上った。

「歩きながら話そう」

十四

十数年経ったある日、幸太郎は突然栄介の家にやって来た。いや、前もって予告はあったのだから、突然というのはおかしい。