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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

私は訊ねた。

「終戦後、君の伯父さんは、どんな風な生き方をしていたんだね?」

「それが判らないんだ」

栄介は街路樹の葉を引きちぎり、指で丸めて押しつぶした。しばらく何とも言わずに歩いた。やがて低い声で、

「初めは真面目に聞いていたんだが、その度に答えが違うんだね。熊本で店を開いていたとか、同じ時期に別府で温泉療養していたとか、伯母が死んだのも終戦直後だったとか、昭和三十年頃だったとか、しゃべる度に話が違うんだよ。友人の医者に聞いてみたら、コルサコフ――」

栄介は言いにくそうに発音した。

「よく診察しなきゃ判らんけれど、コルサコフ症状群を伴う老人痴呆じゃないか、と言うんだ。つまり年寄ぼけだね」

私たちは公園を出た。街には街のにおいがした。

「しかしそろそろ金も尽きかけて来た。それで定額以外をせびりに来るようになった」

と私は言った。

「そういうわけだね」

「うん。そういうことらしい」

栄介はうなずいた。

「この間来た時、幸伯父は玄関に新聞を忘れて行った。何の新聞だと思う? 競輪新聞だ」

「競輪をやってんのか?」

「そうなんだよ」

歩道の雑踏の中では、すり抜けるのが忙しくて、会話は途切れ勝ちになる。