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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

「気分的というより、職業の問題があったのかも知れないな」

栄介は憮然として顴骨のあたりを押えた。城介も顴骨が出ていたが、栄介もそうだ。近頃痩せたと見え、ことにそれが目立つ。

「おやじは実は県庁をやめたのだ」

「そのためにかね?」

「いや。ずっと前だ。おれに竜介という兄があることを、君に話したかな。その兄ももう死んでしまったけれども」

竜介は彼よりも八つ上であった。写真があるから思い出せるけれど、現実の竜介の印象はほとんど彼には残っていない。顔の青白い、髪が額に垂れ下って、むっつりした男であった。弟を可愛がることを、いや、話し合うことをほとんどしなかったのは、年齢が隔たっていたせいもあるだろう。弟たちを相手にするには、欝屈したものに充ちあふれていたためかも知れない。しかし栄介はひとつの情景を思い出す。彼がまだ小学校に入らない、幼ない時のことだ。夫婦喧嘩があった。

「あたしは実家に帰ります」

母は涙で顔いっぱい濡らしながら、納戸にある箪笥の引出しをあけ、唐草模様の風呂敷に、自分の着物をごしごしとつめ込んでいた。

「竜介だけは、あたしが連れて帰ります」

茶の間には、皿や碗が散乱していた。