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きつね
狐
山本 周五郎
「産報」1942(昭和17)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,471 字 · 17 页
五
の窓からそとへ」云われてみんな慄然としながらふりかえった、北がわの窓格子が壊れていた、「……ぱっとそとへ飛んだものがあるのです」
「やはり、やはり、妖怪でしょうか」
「しらべてみてください」乙次郎は番士のひとりに提燈をわたした、「じゅうぶん手ごたえはあったのです、屋根の上を見てください」
提燈をさきに、番士たちは窓のほうへ近寄った、壊れている格子のあいだから、ひとりが燈をさしだすと、思いきって身をのりだした番士のひとりが、あっと云って叫んだ、「いる、毛物が倒れている、それそこのところに……」みんな怖いもの見たさに争ってさし覗いた。その窓のすぐ右がわの、屋根瓦の上に、尾のさきまでいれると五尺にあまるほどの野獣が倒れていた。はためく提燈の光で、斬り放された頸の根のすさまじい傷がみえていた。
「狐だ、おそろしく大きなやつだぞ」
五
弥左衛門は婿のてがらを褒めようともせず、むしろ不機嫌な顔つきをしていた。
「窓格子はひどく壊れたのか」
「すっかり造り直さぬといけないようです、ついでにお天守ぜんたい修理をすべきでございましょう、木組みがゆるんでいますし、南がわの矢狭間はひどくいたんでいて、そこから白鷺などがではいりしているようですから」