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きつね

狐

山本 周五郎

「産報」1942(昭和17)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,471 字 · 17 页

青空文庫

二

弥左衛門は濡れた笠と合羽をとって戸口をはいった。この深更にこんな場所へなんのために国老次席がやって来たのか、誰にもちょっと見当がつかなかった、それで挨拶にも困っていると、

「わあっ」というような奇妙な叫びごえがきこえ、天守のほうから人の走って来るはげしい跫音がした、あんまりその声が異様だったので、番士たちはもちろん弥左衛門もびっくりしてふりかえった。雨水をはねとばしながら闇のなかをつぶてのように走って来たのは斧塚新五郎だった、「だ、だれだ」かれは戸口へとびこみながら、紙のように白くひきつった顔でわめきたてた、「今いたずらをしたのは、どいつだ、ここへ出ろ、いたずらをしたやつはこれへ出ろ」

かれは右手に大剣を抜いて持っていた、その白刃をつきつけながら狂気のようにわめいた。はだしで、頭からずっくり濡れていた。

二

朝食のまえにちょっと雲がきれ、あざやかに青い空がみえたと思ったけれども、ほんの僅かなあいだにすっかり曇ってしまい、いつかまた霧粒の舞うような、雨になってしまった。

「昨夜は夜釣りにいったそうだな」

「……はあ、いってまいりました」

「なにを釣りにいった」