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ねこはち
猫八
岩野 泡鳴
「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页
自分も今さらのごとく泣かざるを得なかった。そして『虎と人間の子とは暗い背景のかげでしばし泣き合った』というのです」
「最後のところはなかなか振ってる、ね」と、近眼は皆に向って言った。
「それがなければ全篇が引きたたないのをみても」と、知識がおもつけ加えた、「この小説があまりに心細い出来であることが分ると思いますが――?」
「そうだ、ね」主人は、もう肩が抜けたというような返事であった。「結局、そうたいした作ではない」
「………」猫八はそれでもこの最後の泣き合いの一件を聴くにいたってびッくり仰天をしたほどに目を見張ってみせた。これもやはりわざと誇張してみせた表情だとは自分ながら知らないでもなかったが、同時にわれ知らず、いつもは心の奥にのみ秘めていた物が顔にまで現われた気がしたというのは、自分の職業に対する悲しみと次男を第二の猫八にさせようかどうかという惑いとが一ときに誘いだされたからである。彼は自分の滑稽商売にも似合わぬ顔つきを人には見せたくないと努めているのだが、努めれば努めるほど顔その物が反対に言うことをきかなくなって、鏡にでも映してみれば、自分の顔がべそ掻き面になってるように思われた。