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ねこはち
猫八
岩野 泡鳴
「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页
そして大根や菜ッ葉をも時々は彼らにただ分配してやってる。これでも自分らは宵越しの金は持たぬちゃきちゃきの江戸ッ子で、自分は芸者の腹から浅草の有名な料理屋に生れ、女房も神田上水に産湯を使ったものだ。ついでに自分の見識を皆の前に披露したくなった。
「ある時、わたくしの長屋の入り口に立派な馬車が停りました。どうせまずい生活をしているのは御承知であったでげしょうが、――猫八と申す芸人の家はこちらか?――へいと、わたくしはちょッと当惑いたしました。――では、本人は在宅かどうか?――へい、師匠は今湯にまいって留守ですが――まさか、ふんどし一つのわたくしがその本人ですとは出られませんから、な。――ちょッとお待ちを願います、ただ今すぐ呼んでまいりますから――と言ってひとまずそとへ出ました。女房にはちょッと目くばせいたしましたが、気まずい顔をしておりました。――わたくしは家を出るていと、すぐ入り口の鍛冶屋へはいり、そこのかみさんに訳を話して衣物と帯とを持ってきてもらいまして、今湯から帰ってきた風をして、借りた手拭いを水に濡らしたのと石鹸箱とを持って、――お待たせいたしました、すみません、わたくしが猫八ですが、御用は?――弟子と師匠とが少しも顔が違ってませんから、向うも不思議に思ったのは止むを得ません。