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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

と来たので、彼はまず安心して、もう、こちらの物だとしばらく口をつぐんでしまった。

誰かの書いた小説の研究が初まってるのであったが、題目は俳優の事であるから、彼も縁の近い芸人として聞き耳を立てた。

当家の主人らしいのは、二三年前にはよく銭湯でいっしょになり、近ごろでも時々途中で出会うことがある人だが、これが高見さんに向って、

「今、『虎』が問題になってるところです」と言った。

「誰れのです?」

「久米氏の虎です、五月の文章世界に出た」

「僕は読んでませんが」と、高見さんは答えた。

「ここにも読んでる人は少いのだが――これをわざわざ六月の会に持ちだしておいたその人が今夜出席していないので、何も言わないで通過してしまおうかと思ってるのです」

「どんな筋なんでしょう」という問いに主人は答えて、

「僕もその人が問題にしてくれろと、ハガキで言ってきてあったのでちょッと読んでおいただけなのですが、――浅薄と言えば浅薄な物だが、低い程度で器用には纒まってると思う。作者にもそう深い要求がなかったのだろうから、あの作者としてはあれでもいいのでしょうが――虎とは作の主人公なる三枚目俳優が扮することになった役目です。