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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

いい加減調子を合してるうちに、うつかり信用出来ないぞという気が私のうちに起ってくる。なぜか私は知らない。今に背負投げを喰うぞという気持が、暗々裡に私を警戒させるのだ。そして実際、その背負投げを喰うことも屡々ある。私が彼女の上機嫌に引込まれて、頑是ない子供にからかったり、彼女の乳房を弄んでる子供をいじめたりすると、「子供は玩具ではありません、」としまいに彼女は云い出す。彼女にとっては、私よりも子供の方が大事なのだ。子供は神聖な宝で、猥りに犯してはいけないものなのだ。……然しなおいけないのは、彼女が不機嫌になる時である。私が何か尋ねても碌々返事もしない。そして歯の手術の不愉快なことを、切れ切れな言葉で訴える。訴えた終りには、「みなあなたのせいですよ、よく覚えていらっしゃい、」と止めをさす。私が彼女を殴へりつけたという事実だけが、何時までも残っているのだ。二人が獣のように掴み合ったあの不快な光景は、彼女の頭から消え去ってるかのようである。然し私の頭からは消え去らない。僅かな機縁であの光景が私の頭に蘇ってくる。そして彼女に対する反感――というより寧ろ訳の分らない漠然とした憤懣の情が、むらむらと湧き上ってくる。