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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

と申されて、

ちぎりあれやすゞしき道に伴ひて

のちの世までも仕へつかへむ

とよまれましたのは、ときに取って風流のきわみと存ぜられました。それよりいずれも詰め所へおひきとりなされ切腹のおしたくでござりまして、お女中がたやわたくしはおふたかたにおつきそい申し上げ、いよ/\天守へまいりましたことでござります。もっともわれ/\は四重までお供を仰せつかり、五重へは姫ぎみたちと文荷斎どのばかりをおつれになりましたが、わたくしはいまがだいじのときとぞんじ、五重へかようはしごの中途までそっとあがってまいりまして、いきをこらしておりましたことゝて、うえの御様子はもれなくうかゞっていたのでござります。とのさまは先ず、

「文荷、そのへんをすっかりあけてくれ」

と仰っしゃって、四方のまどをのこらずあけさせられまして、

「あゝ、この風はこゝちよいことだな」

と、あさかぜの吹きとおすおざしきに端坐あそばされ、

「うちわのものでいまいちど別れの酒を酌もうではないか」

と、文荷さいどのにおしゃくをおたのみなされまして、おくがたやひめぎみたちとあらためておさかずきがござりました。