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つぶてしんじゅう
礫心中
野村 胡堂
「富士」1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,190 字 · 28 页
差し覗くと、月明りのせいもあったでしょう、真っ蒼な顔、
「どうしたんだお豊」
「私にも解らない」
「尤もだよ、江戸で十本の指に折られた大分限が、御改革のお蔭で半歳経たぬうちに身上を仕舞い、父親は入牢、姉さんは自害、たった一人の母親にまで死に別れたんだもの――」
「…………」
「だがなお豊、不運はお前ばかりじゃない、絵草紙、錦絵は御法度、彫職の俺などは上ったりだ、元の植木屋に返ったところで、ろくな仕事があるわけは無し、明日から何をして行けば宜いか、見当も付かない始末よ、親の代からの借金は山程あるし、――俺はもう死んでしまい度い」
彫物師の要次郎はお豊に劣らず気が挫けて居りました。
「要さん」
「一緒に死んでくれないか、お豊」
「要さん」
お豊は犇と、要次郎に縋り付きました。名月を見る人も無い橋の上に、二人はもう、死ぬ事より外には考えて居なかったのです。
「天とう様が、何んだって斯う俺達に祟るんだろうなア」
「おや?」
「役人方の見廻りだよ、月見船でも出す者は無いかと、鵜の目鷹の目さ」
河岸の騒ぎ――、あわただしい人の足音を遠く聞いて、要次郎は苦笑を漏しました。
「要さん、父さんを牢へ入れたのも、身上を仕舞わせたのも、天とう様のせいだろうか」