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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页
尻尾と頭とが一つでない。道誉を鵺というが、兄者こそ上手をこす大鵺だわ!」
「こやつ、止めぬな、悪口を」
「いうまいとしても、こよいばかりは直義も」
と、直義は眼のうちのものを煮えたぎらせた。ふと幼少の頃そっくりな顔にみえる。せつな、尊氏はいきなりその弟の頬をピシッと烈しく一つ撲りつけていた。
「いえッ。いくらでも申してみよ」
「打ちましたな、兄者!」
尊氏にもままかっとなる性情がなくはない。
そこもまた、直義からいわせれば、“矛盾の人”であるのだろう。けれどそれを外に出したせつなに彼は後悔する。いまもそうであった。弟を打つには打ッたが、とたんに胸は凝縮の痛みをしていた。そしてもう半分は理性の自己にもどりながらも、
「オオ打った。まだいうなら、いくらでも打つぞ」
と、怒った眼だけはそらさなかった。
「…………」
直義は蒼白な顔に鬢の毛を垂れていた。とっさに、あらい感情を吐きそこねて、かえって、打たれた自分を憐れむようにしゅんと色を沈めている。そして、静かに、曲がった烏帽子の緒をむすび直すあいだに、薄い自嘲と度胸をすえた太々しさとを、どこやらにたたえていた。
「兄上――」