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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页
――と彼には案じられて来て。
「やはり出よう!」
と、はらをきめた。急遽、高ノ師直をして、全船列の水軍に、ともづなを解け! 帆支度にかかれ! と出港の令を出させようとしたのだった。
ところが、この風浪を案じていたのは、彼ばかりでない。それぞれ、各船の大将たちも、水夫楫取をつかまえて、空もようを談じ合っていたのである。たちまちいろんな意見が出てきた。そして尊氏のお座船へ来てまず高ノ師直をとりまいていた。
「なに、将軍には御出港のおこころですと? さアそれはどうかな?」
「海馴れた男どもは、みなこの空もようは測り難いと申しておる」
「いまは西かぜ、順風ともいえるが、月の出汐の時刻には、風向きが吹きかわろうともいっています」
「もすこし、お見合わせあってはどうかな。とかく空グセの悪い五月の海……」
騒めきが内へ聞えたのであろう。船屋形のなかで尊氏の声がしていた。「師直、師直」と、再度、彼をよんでいるふうだった。
――召されて、そしてふたたび、船屋形の内を出てきた師直は、そこらに、濡れ鷺のごとく群れたたずんでいる諸将へ告げた。
「いや各※(二の字点、1-2-22)、お案じにはおよばん。