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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

で、彼は、

「桜井ノ宿へ行け。そこで兵馬を休め、兄上のお出で合せをお待ちしよう」

と、道をなお、小一里ほど、北へとった。

山崎の麓である。水無瀬ノ宮の址があり、古い宿駅の一つがあった。西のいくさといえば、いつも軍馬は、このへんを往還するので、荒びた軒の人々は、剣槍を見ても、驚くなどのふうはなく、かえって、よいお花客として、蠅のように、酒売りの男どもや、籠を頭にのせた販ぎ女などが、すぐ寄りたかって来るのであった。

その兵馬を、桜井に屯したのは、正成を待つ以外、正季にべつな目的もあったらしい。

駐軍の事を終ると、彼は、叔父の松尾季綱に、

「往返、二タ刻とはかかりますまいから」

と、何処へかいそいで行った。

従者には、中院ノ雑掌俊秀と天見ノ五郎常政を連れ、ふたりを案内に、山崎の海印寺から一里半ほど北へのぼっていた。

「このあたりが、もう大江の山です」

と、さきに立って行く俊秀が言った。――丹波篠村へ通じる峠に近いのである。

正季は、久しぶりな師のすがたを胸にえがいていた。この大江山でも、河内の奥にいたときのような山荘の戸をひそと閉じておいでか、などと。

もういうまでもなく、彼が訪ねようと慕って来た人とは、その後、この地に隠棲したと聞いている兵学の師、毛利時親なのである。