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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

そのことは、義貞にまた或る不安をいだかせていた。

何をまた、正成が奏したろうか。

義貞はあれいらい、正成なる者に、決してまだ釈然とはしきれていない。――あれいらいとは、もちろん義貞が西征の途に立った三月、正成が直々に、みかどへ諫奏し奉ったというそのことである。

正成はお諫めして「このさいは、新田殿を退かせ、尊氏をお招きあって、尊氏とおはなし合いになることが、もっとも万全な御方針かとおもわれます」と、切々申しあげたという。――義貞は当時聞いていた。彼の耳はこれを忘れていない。

右衛門ノ佐脇屋義助が、

「しゃっ。いよいよだぞ」

と、これへ馬をとばして来て、床几場で義貞と会っていたのは、陽もやや西のころだった。

「兄上。ここらからはまだ見えませんが、高取山から望みますと、まさに数千艘といえる敵の水軍が、明石と淡路島とのあいだを、魚群のように遡ってくるのが、あざらかに見られました。あわてるには及ばぬまでも、諸陣はみな戦気立ッて、御司令を待ちおりまする。備えはいかにしたものでしょうか」

「おちつこう」

と、義貞は、弟の語気に、わざと一語を措いて。

「敵の陸兵は?」