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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

だが、ここでは上杉伊豆の懸命な指揮のもとに、桃井修理、大高伊予、須賀左衛門、三浦介の族権ノ九郎らが総力をあげてふせぎに立ち、時にはその一端をやぶられても、たちまち、追ッかけ追ッとりつつんで、からくも、わずかなまを持ちささえていた。――するうちに、もう松ばやしの西の端れ――西国街道へつづく平野には、足利直義の軍兵がまっくろにあらわれていたし、蓮池方面からも、高ノ師泰隊の騎兵一団が、

「すわ、一大事」

と見たかのごとく地を蹴ッてこれへ来る。

ぜひもない。これまでだ。正成にとっては所期のとおりな様相となったにすぎない。

前面、側面、また後ろ。敵を見ぬ一面もなくなっていた。包囲はしだいに圧縮され、吹きまくる殺風のあいだに、はや残り少なくなってきた楠木方の将士は、たがいに戦友の影を求め、兄は弟をよび、弟は兄をよび、呼び交い呼び交い、しぜん、吹き溜められるように、せまい一窮地へと追いつめられた。

がくんと、戦力が落ちたと知ったとたんには、残る味方同士が、ひとつに、かたまり合うことすらが、困難中の困難だった。

でも、

「兄者ッ」

と、正成を見つけて、駈けよって来た正季には、あやしくも、よろこびにちかい、いや歓喜の極限にひとしい声があった。