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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

恐いほどな眼ざしで、彼の返辞を迫った。

「大きくは、みかどのおん為。一つには、そち自身の恋のためだ。首尾よう果たしたら、そちと卯木の仲も、末始終、そい遂げられるように、千種殿とこの身とで、計ろうてつかわすが」

「いたしまする」

元成は、敢然と、答えた。――それは、人を殺せ、という刺客の役だったが、元成はこの一念で、出来ないことはないとおもった。

元成が、明晰に「――やります」と、刺客の任をひきうけたので、烏丸ノ成輔も、ほっと、体じゅうの硬めをほぐした。

殺すべき目標の人物。

また、理由などは、それから打ち明けて聞かせたのである。

ここに大判事中原ノ章房という公卿がある。

彼もかつては、一味の“文談会”にも顔を見せ、早くから宮中における、北条討伐の秘謀を知悉していた一人だが、その章房が、先ごろ、

「事、余りにも、御無謀にすぎましょう」

と、みかどへ直々に、諫言したものである。

「北条氏であれ、東国の諸武士であれ、みな一天の君の赤子。諸民の悪行は、君の御不徳に帰しましょう。まして、乱となれば、塗炭の苦しみは、良民に降りかかります。――世に乱なかれと、民のために祈られてこそ帝ですのに、九五の尊をもって、若公卿ばらの陰謀を嘉しあそばすなどは、世の末、思いやられてなりません。