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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

およのに酌をさせて、およのをからかいながら、もうすっかり酔っていた。

「お世辞を云うわけじゃないがね」その客の云うのが聞えた、「お世辞じゃないが、おまえさんは男に好かれるよ、ええ、好く好かれるは顔かたちじゃないからね、これは気分のものだからね、本当ですよ、あたしゃお世辞は云いません、およのちゃんのようなひとは……」

「つまらない話さ」六助は不味そうに酒を啜った、「愚にもつかない、他人さまには聞かせられないようなばかげたことさ」

「そうでないことはないじゃないの」

「それにしてもさ」と六助が云った、「子供じゃあるまいしいい若い者が、雷獣はひっ掻くそうだ、なんて、あんまりばかげているじゃないか」

「あらどうして」お梅は云った、「雷獣ってかみなりさまの落ちるとき一緒に落ちて来るあれでしょ、あれなら六さんひっ掻くわよ」

「ひっ掻きゃしないんだ」

「だってみんなそう云うわよ、あたしだっていつかお日枝様の山へかみなりが落ちたとき見にいったら、巨きな御神木が裂けて、がりがりひっ掻いた痕がいちめんについているのを見たわよ」

「ひっ掻きゃしないんだ」六助は辛抱づよく云った、「かみなりと一緒に落ちて来もしないんだ、もともと雷獣なんてものはいやしないんだよ」