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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

二人の喧嘩の九割まではそういう問答から始まるのであった、六助はそれで話を打切りにし、寝返りを打って眠った。

三日めには馬入川を越して平塚、大磯から小田原までと思っていたが、花水橋というところでいやな事が起こった。代官所の下役人が道に出ていて、客が訊問されたのである。

「どこのなに者であるか、商売はなにか、どこへなに用でゆくか」

そんなことを、妙に訛りのある言葉で諄く聞き、六助と中次も切手を調べられた。訊問の仕方がひどく諄いので、二人は中っ肚になったが、いそという客はさすが商人らしく、へいへいとどこまでも温順丁寧に答えていた。……そんなことで時間を潰し、その日はまだ早かったが大磯で泊った。

明くる朝、五時に宿を立って、鴫立沢という処へさしかかったときのことである。そこは海のほうにこんもりと松林があり、西行堂というお堂が建っている。心なき身にもあはれは知られけり……と、その昔西行法師が歌を咏んだ処だというが、ちょうどそこの処で、うしろから駕籠が二挺、こっちを追い越して停ると、中から男が二人現われて、

「その駕籠、おろせ」

と喚きながらこっちへ来た。喚いたのは役人らしい、袴をはき足拵えをして、刀を差していた。