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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
おう魔が時
また旧の境内の中央に立ちて、もの淋しく瞶しぬ。山の奥にも響くべく凄じき音して堂の扉を鎖す音しつ、闃としてものも聞えずなりぬ。
親しき友にはあらず。常にうとましき児どもなれば、かかる機会を得てわれをば苦めむとや企みけむ。身を隠したるまま密に遁げ去りたらむには、探せばとて獲らるべき。益もなきことをとふと思いうかぶに、うちすてて踵をかえしつ。さるにても万一わがみいだすを待ちてあらばいつまでも出でくることを得ざるべし、それもまたはかり難しと、心迷いて、とつ、おいつ、徒に立ちて困ずる折しも、いずくより来りしとも見えず、暗うなりたる境内の、うつくしく掃いたる土のひろびろと灰色なせるに際立ちて、顔の色白く、うつくしき人、いつかわが傍に居て、うつむきざまにわれをば見き。
極めて丈高き女なりし、その手を懐にして肩を垂れたり。優しきこえにて、
「こちらへおいで。こちら。」
といいて前に立ちて導きたり。見知りたる女にあらねど、うつくしき顔の笑をば含みたる、よき人と思いたれば、怪しまで、隠れたる児のありかを教うるとさとりたれば、いそいそと従いぬ。
おう魔が時
わが思う処に違わず、堂の前を左にめぐりて少しゆきたる突あたりに小さき稲荷の社あり。