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そこつひょうばんき
粗忽評判記
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页
久之進はなにも云わなかった、長袴の裾を踏むなどということはありがちである、またそのはずみで襖ごと顛転することだって無くはない。それでも過失なら笑って済ますのが普通である、しかし虫の居所が悪ければ袖が触っても命のやりとりをすることさえあるのだ。ことに我儘自由に育った大名同士のことだから、どんな些細なきっかけで癇癪を破裂させぬ限りもない、出雲守が怒ったのも分るし、また壱岐守がこんな詰らぬことをと云う気持もよく分る。――まあそのうちに和解するだろう、と久之進は気軽に考えていた。
そのほうは楽に考えていたが、すこぶる楽でないことが久之進のほうに持上った。その明る日の朝であったが、久之進のもとへ一通の手紙が届けられたのである。穏かならぬ左封じだ。披いてみると、「冠省ごめんくださいまし、先日桜川町屋敷へ御入来、久々のおめもじ嬉しゅう存じました、あのおりはあなた様の御粗忽で勝負はそのままお取止めとなり残念に存じておりましたところ、そなた様には女童と勝負をするような腰抜ならず、と仰せられましたとか、わたくし、身にとり無念のことに存じます。勝負をお逃げなされたあなた様に、おんなわらべとお蔑み遊ばすお心得ありや否や、失礼ながら手練の矢ひと筋参りたく存じますゆえ、この状お手に入りしだい、赤羽ヶ原までお越しくださるよう、もし先日