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たいない
胎内
三好 十郎
「中央公論」1949(昭和24)年4、5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,766 字 · 136 页
はじめて、それが佐山の声であることがハッキリする)……お月ね、チョロリでて、山の腰よ照らす。娘ね、島田は、ナンダ、髪よ照らす。(ユックリと間伸びのした歌いかた)
花岡の声 ……村子。……村子。……どうした?……
村子の声 ウム……(右手の壁のあたりから、すすり泣くような唸り声を出す)
佐山の声 ……(それらに関係なく、歌をくりかえす)来るかね、来るかと、待つ夜は来ない。待たぬね、夜は来て、ナンダ、門に立つ。
花岡の声 ……たのむ。歌うのを、よしてくれ。……たまらない。
佐山の声 ……(しばらくだまっていてから)吉富といって、やっぱり、はじめての召集で、甲州の山ん中から来た男だ……そいつが歌いだして――盆踊りの歌だっていってた……みんな、それから、ここを掘りながら歌った。……そんな時の、なんだ。……カアチャンに逢いたい、カアチャンに逢いたい――朝から晩まで、そういって女房の話をするんだ。カラダのかっこうまでして、しかた話で、やる。二度ばかり脱走してね、たんびに、カアチャンに逢うと、テメエの方からノコノコ舞いもどって来る。フフ、処罰されて、その上にぶんなぐられて、ヘロヘロになって、またここに追いこまれると、ケロリとして、みんなといっしょに掘りながら――(節をつけて)待たぬネ、夜は来て、ナンダ、門に立つ。