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たいない
胎内
三好 十郎
「中央公論」1949(昭和24)年4、5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,766 字 · 136 页
女の声 あんた、前にもここに、はいったことがあるのね? でしょう?
男の声 ……去年、いや、この春だったかな、ブラブラここいらへ来て――
女の声 あの、湯元館のオツヤさんあたりと、いっしょじゃない?
男の声 ヘ!
女の声 女中さんといっても、小麦色の肌をして、ベッピンですもん一種の。こんな山ん中の女中さんにしとくのは惜しいわ。毛がすこしちぢれているとこなんぞも中年向きだな。
男の声 なんのこといってんだ?
女の声 んだからさあ、あれなら悪くないといってんのよ。だもんだから思い出しちゃって……ホラ穴や――
男の声 じょうだんもんだ。
女の声 ホラ穴――だからそうじゃないの――ツワモノどもが夢のあと。
男の声 ヤクのかい、こんな暗いなかで?
女の声 まるで、フフ、一人もんが停電のなかでモチでも焼いてるみたい。
男の声 ふ!
女の声 さ、行きましょうよ。こんなところでグズグズしていると、日暮れまでに、その沢下とかって温泉までつけないわよ。
男の声 なに、あと、たかが一里と半というとこだ。道はよし、二時間もありゃヘッチャラだ。
女の声 でも、こんだけの荷物があるのに、雨よ、あんた。