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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
六
「だからお止め場でございましょうがね」
光辰は口のまわりをゆっくりと拭き、途方にくれたような眼つきで、その狭くて暗い小屋の内部や、老婆の顔を眺めやり、やがて、持っていた欠け茶碗をそこへ置いた。
「その」光辰は立ちあがって、なにか云いかけたが、思うことが口に出ないようすで、「ぞうさになった」と礼を云った、「休ませてもらって、茶を馳走になって、うれしかった、またいつか会おう」
「お礼なんぞ云われちゃ恥ずかしいですよ」と老婆は云った、「また通りかかったらおよりなさいまし」
光辰は外へ出ると、少し戻って、裏の空地を見やった。そこでは、――市兵衛というあの老人が、さっきと同じように鍬をふるっていた。切り崩した崖の下の、はだかな赭土の地面を、緩慢な動作で掘りおこし、掘りおこしながら独りでうたっていた。
「――五十年待ったとて、同い年ゃ同い年、六十年待ったとて、同い年ゃ同い年」
光辰は塗笠を手に持ったまま、なにか荷物でも背負ったような足どりで、そこを歩み去った。
六
城へ帰ると浅利重太夫に叱られた。
はぐれた供の者たちとは、瑠璃光寺の山門の前で会ったが、案内役の渡辺半助が城へ使いを走らせたので、城からも捜索の人数が出された。