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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
光辰はちょっと黙った。
「その」と暫くして光辰が訊いた、「その、あの唄は古くからうたわれていたのか」
「はい、節は古くからの野良唄ですけれど、文句は祖父のでたらめでございます」
「妙な文句だと思った」
「頭がおかしくなってからうたいだしたものですから」
「終りがあるのか」
「死ぬまで待ったとて、――というのがおしまいで、またはじめの、三年待ったとてに返りますの」
光辰は沈黙し、やがて云った、「時間が惜しい、また話そう」
おたきは褥へ戻った。
光辰は乗馬と槍が好きで、毎日、午前に馬をせめ、午後は槍の稽古をした。どちらも好きなわりに上達せず、乗馬のほうはともかく、槍の稽古では指南役が手をやいていた。江戸で槍を教えたのは介原小藤次という者であるが、国許へ来てからは永井民部が相手役を勤め、毎日一刻は欠かさず稽古をした。――遠乗りの事があってからまもなく、槍の稽古をしながら、民部が声をひそめて光辰に話しかけた。そこは二の丸御殿に付属した藩主専用の稽古所で、広さは十間に二十間ほどあり、そのときは小姓の者が三人控えていた。民部は光辰を巧みに誘導して、小姓の者たちからはなれながら、ごく低い声で話しかけたのであった。