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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
夫人の名は不明であるが、結婚したときはもう二十五歳で、光辰より八つも年長であった。
光和は五十二歳で隠居し、光辰が家督を相続して摂津守に任ぜられた。これは彼が十九歳のときであるが、――ここでちょっと注意しておきたいのは、彼の祖父も父も、藩の政治には殆んど無関心だったことだ。祖父の光昭は陶樹院と呼ばれるが、若いころから焼物に凝り、麻布の下屋敷に窯を造らせて、みずから皿や鉢や壺や、茶碗などを焼いて一生を終った。父はそんな趣味さえなく、二十九歳で家を継いでからずっと、まるで隠居のような生活を送って来ていた。
これは領地の事情にもよると思われる。というのは、国許の地勢は極めてよい。中部山脈を北にし、南東に広く沃野がひらけている。気候が温暖で作物がよくできるし、三筋の清流と大沼と呼ばれる湖水には、四時それぞれに魚鳥の獲物が多い。また、これらの豊かな物産に加えて交通の便がいいから、五万六千石という表高より、実収は二万石も多いだろうといわれている。したがって藩政は安定し、領内に事の起こるような例も極めて少ないから、政治のために藩主をわずらわす必要もなかった、といえるかもしれない。