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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
……
「此の人はそれが誰にも分かって貰えないと思い込んで、苦しんでいるのではなかろうか?」と明は考え続けた。「菜穂子さんだって、昔はいつも僕の夢みがちなのを嫌ってばかりいたが、やっぱり自分だって夢をもっていたんだ、あの僕の大好きだった菜穂子さんのお母さんのように……。それがこんな勝気な人だものだから、心の底の底にその夢がとじこめられた儘、誰にも気づかれずにいたのだ、当の菜穂子さんにだって。……しかし、その夢はまあどんなに思いがけない夢だろうか? ……」
明はそんな風な想念を眼ざしに籠めながら、菜穂子の上へじっとその眼を据えていた。
彼女はしかしその間、目をつぶった儘、何か自身の考えに沈んでいた。ときどき痙攣のようなものが彼女の痩せた頸の上を走っていた。
明はそのとき不意といつか荻窪の駅で彼女の夫らしい姿を見かけた事を思い出し、それを菜穂子に帰りがけにちょっと云って行こうとしかけたが、急にそれは云わない方がいいような気がして途中でやめてしまった。そしてさあもう帰らなければと決心して、彼は二三歩寝台の方へ近づき、ちょっともじもじした様子でその傍に立った儘、