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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

棺を出そうとしているところへ、参吉が悔みに来た。急に背丈が伸びたようだし、口のききようもいっそうおちついて、繁次にはちょっと近づきにくいようにさえ感じられた。近所の人たちのごたごた混みあっているなかで、参吉は悔みを述べ、香典の包を置くと、繁次にめくばせをして、脇へ呼んだ。

「おれは田原町をよすことにしたよ」と参吉は云った、「蒔絵職人になるつもりなんだ、おちついたらまた話に来るからな」

そのときおひさがこっちへ来て、参吉さん、と呼びかけた。参吉がそっちを見ると、おひさは繁次のうしろへ隠れて、恥ずかしそうに笑いかけた。参吉も微笑み返したが、なにもものは云わず、繁次に「じゃあまた」という手まねをして、たち去った。

妹に死なれたことは、繁次にとっても大きな痛手であった。しかし育ちざかりのことであるし、母がいつまでもくどくど嘆き続けるので、それがうるさいために、却って早く悲しさを忘れるようになった。――それよりまえ、九月の晦日に参吉が訪ねて来て、蒔絵師のところへ弟子入りがきまったと云い、ちょっと外へ出ようと誘った。それから隅田川の河岸へゆき、そこで半刻ばかり話した。