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らん
蘭
山本 周五郎
「家の光」1948(昭和23)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 页
だれかが……」
「ああ平三郎らしい。あまりに平三郎らしい。暴を押えるのに暴をもってするのは、無為というべきだ。そこもとの勝ち気は、こんなことにしか役だたないのか。いけない。断じていけない。そこもとは刻限どおり江戸へ立つんだ」
「だが、武士と武士との約束をどうする。この上おれに恥辱を重ねろと云うのか」
「長山の丘へはおれが行く。そこもとは穏健と笑うけれど、穏健にも一徳のないことはない。藤六のことはおれにまかせてもらう」
「そこもとには、これが、おだやかにおさまると信じられるのか」
「火を消すにも法はいくつかある。やけどにかまわず手でもみ消すのも法だ。しかし水をうちかけてすむのに、手を焦がす必要はない。そこもとが帰るまでには、穏健にけりをつけておこう。あとは引きうけた。安心して行くがよい」
大丈夫だろうな。まちがいはないだろうな――いくたびも念を押したのち、なお心を残しながら平三郎はようやく帰っていった。
明くる朝、同僚たちといっしょに、城下はずれまで平三郎を見送った。冬にはいった空は、目に痛いほど碧色に澄みあがり、雲のわたる遠い山なみのなかには早くも雪をかぶった峯がながめられた。