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じゃせいのしゅうねん

蛇性の執念

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,981 字 · 38 页

青空文庫

『そんなにお厭だったんなら、武雄さんと御結婚なさらなけりゃよかったんですわね。文夫さんの未亡人でお通しになればよかったのに――』

『それが出来る位なら何も――』

綾子さんは半分口の中で云いながら、急にすすり上げて泣きはじめました。うっかりと云った私の言葉は、綾子さんの最も痛い処を突いたんです。飛んだことを云ったと思って後悔いたしました。

ながい間泣き続けていた綾子さんは何か心に決しでもしたように、軈てきっと顔を上げて申しました。

『先生も私が武雄と結婚したのを不愉快に思ってらっしゃるんでしょうね。私自身でさえこんなに不愉快に思う位なんですから』

『でも仕方のない事なんでしょう。そうなさるより途がなかったとしたら、それに武雄さんは昔から貴女がお好きだったのね、ほんとは文夫さんから奪っても、御自分のものになさりたかったんでしょう?』

綾子さんはそれには答えないで、じいっと何か考え込んでいましたが、

『私、先生にどうしても聞いて頂きたいことがございますの、でもそれは他人の耳に入ると、ちょっと困ることなんですし、どうぞ、どなたにも仰しゃらないで下さいませ』

綾子さんはしきりに他言しないでくれと繰り返し繰り返し云ってから話しました。