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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
「えッ、――」
と、帳場氏は、帆村の勢いに驚いて身をすさった。
「なにがそいつだんネ」
「そいつが恐るべき蠅男なんだ。僕にはすっかり分ってしまった。早くそいつの部屋へ案内したまえ」
「へえ、あの蠅、蠅男! あの殺人魔の蠅男だっか。ああそういわれると、どうも奇体な風体をしとったな。気がつかんでもなかったんやけれど、まさかそれが蠅男だとは……」
「愕くのは後でもいい。さあ早くその井上一夫の部屋へ――」
帆村はジリジリして帳場氏の腕をつかんだ。
帳場氏はそれに気がついて、
「ああ、その人やったら、今はお留守だっせ」
「ナニ留守だッ。どうしたんだ、その男は」
「いえーな。ちょっと宝塚の新温泉へ行ってくるいうて出やはりました」
「それは何時だ」
「来て間もなくだっせ。ちょうどあの西洋封筒を拾ったすぐ後やったから、あれで午後の四時十分か十五分ごろだしたやろな」
「うーむ、そいつだ。いよいよ蠅男に極った。分ったぞ分ったぞ」
「あンさんにはよう分ってだすやろが、こっちには一向腑に落ちまへんが」
「いや、よく分っているのだ。僕の云うことに間違いはない。さあ早く、その井上氏の部屋へゆこう、部屋の鍵を持ちたまえ」