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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「まあ、そこへお掛け。きょうは何の用じゃな」

と、皺枯れ声でいった。

帆村は、中央の安楽椅子の上にドッカと腰を下ろし、腕組をしたまま、

「きょうは一つ貴方に教えていただきたいことがあって参ったのです」

「ナニ儂に教えて貰いたいというのか。ほう、君も老人の役に立つことが、きょう始めて分ったのかな」

「その老人のことなんですよ」と帆村は薄笑いさえ浮べて、

「つまり鴨下老ドクトルを階下のストーブの中で焼き殺した犯人は誰か? それを教えて貰いたい」

「何を冗談いうのじゃ。鴨下ドクトルは、こうして君の前に居るじゃないか。血迷うな。ハッハッハッ」

生きている鴨下ドクトルに、鴨下ドクトル殺しの犯人を尋ねるというのは狂気の沙汰だった。帆村探偵は遂に逆上をしたのであろうか。

「言うなッ」と帆村は大喝してドクトルを睨みつけた。「なんだ、その貴様の左腕は何処へ置き忘れて来たのだッ」

「呀ッ、こいつを知られたかッ」

と、ドクトルはブラブラの左腕の袖を後に隠したが、もう遅かった。

「さあどうだ、蠅男! 化けの皮を剥いで、両手をあげろッ。無い方の手も一緒に挙げるんだ」

と、ピストルを擬して帆村は無理なことをいう。