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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

――蠅男――

この二字だけは、不器用なゴム印の文字であって、インキは赤とも黒とも見えぬ妙な色で捺してあった。

更に、奇怪な翅や脚をりとり、下腹部を半分に切ってある蠅の木乃伊。――

全く妙な通信文であるが、とにかく脅迫状に違いない。

「お父つぁん。きっと心当りがおますのやろ。隠さんと、うちに聞かせて――」

「阿呆いうな。蠅男――なんて一向知らへんし、第一、お父さんはナ、人様から恨みを受けるようなことはちょっともしたことないわ。ことに殺されるような、そんな仰山な恨みを、誰からも買うてえへんわ」

「本当やな。――本当ならええけれど」

「本当は本当やが、とにかくこれは脅迫状やから、警察へ届けとこう」

「ああ、それがよろしまんな。うち電話をかけまひょか」

「電話より、誰かに警察へ持たせてやろう。会社へ電話かけて、庶務の田辺に山ノ井に小松を、すぐ家へこい云うてんか」

娘の糸子が電話をかけに行っている間に、邸内の男たちが呼び集められた。玉屋総一郎は、ともかくも蠅男の襲撃を避けるため、自分の居間に引籠る決心を定めた。それだからまず外部から蠅男の侵入してくるのを防ぐために、四つの硝子窓を内側から厳重に羽根蒲団とトタン板とでサンドウィッチのように重ねたもので蓋をし、釘づけにした。