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おやどりことり

親鳥子鳥

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年10月~1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,828 字 · 181 页

青空文庫

「おやおや、看板を塗り直したぜ、『民衆理髪軒プロレタリ屋』は振っている」

と僕は踏み止まった。

「プロレタリヤが好きだからね」

「好い塩梅に空いているよ」

「君は先に寄り給え。僕はこの小包を置いて直ぐ来る」

「いや、一緒に行くよ。散髪だ。おや、『近所に偽物あり。御用心』と書いてある」

「彼方のことさ」

「しかし散髪屋の偽物は変だね」

「偽物さ。他の縄張りへ無断で似寄りの店を出したんだもの」

と文一君は何処までも河口贔屓だ。

郵便局に着いて文一君が小包を書留にして貰う間に、僕は不図お父さんの話を思い出して書台の筆を検めた。成程、ひどいのが置いてある。三本とも実用は猫柳と選ぶところあるまい。事務員が使い古して棄てる筈のを備えつけるらしい。逓信省は民衆を一人一人弘法さまと心得ている。随分書き悪かろうと墨汁を含ませて見たのが機会になって、僕は間もなくこの猫柳で厄介な書信を認める運命に陥った。

「もしもし、坊っちゃん」

と折から印半纒を着て手甲を篏めた女に呼びかけられたのである。

「何ですか?」

「恐れ入りますが、ハガキを一枚御足労願います」

「はあ?」

と僕は訊き直したが、

「さあ、何うぞ」