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おやどりことり
親鳥子鳥
佐々木 邦
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年10月~1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,828 字 · 181 页
とハガキを突きつけられたので矢張り代筆の依頼と分った。あの筆で書くには実際御足労ぐらいに相当するかも知れない。
「お安い御用です」
「子供衆でないと頼み悪いと思って先刻から待っていましたよ。馬鹿な話でさあ。家の人に逃げられたんですよ」
「御主人ですか?」
「冗談言っちゃいけないよ。私は奉公人じゃない。これでも職業婦人だよ。家の奴が逃げたのさ。亭主野郎さ。酒ばかり食ってのらくらしていやがるから叩き出してやったのさ。けれども真正に逃げられちゃ矢っ張り困るからね」
とお上さんは急に言葉が粗雑になった。
「何と書きましょう?」
と僕は度胆を抜かれて恐る恐る伺った。
「帰れって言ってやって下さい。私も今度丈けは料簡するし、昨夜親方が訪ねて来て建前があるって話だし、何の道帰れって書いてやって下さい」
とお上さんは声が大きい。
そこへ文一君が用を済ませて近寄った。
「代筆を頼まれたんだよ。一寸待ってくれ給え」
と断って置いて、
「拝啓、益御清栄奉賀候。昨晩親方お見えに相成り、建前有之由につき、何卒至急御帰宅被下度願上候。先日のことは呉れ呉れも私が悪く、今更後悔罷在候」
と僕が書いた通りお上さんに読んで聞かせた。